交通事故被害者の死亡逸失利益の算定について、希望する職業に就くため新卒での就職を断念し、大学卒業後アルバイトに従事し、近い将来、正社員として就労することを視野にいれて進路を考えていたこと等の事情を考慮し、大学卒業後3年程度経過した25歳から67歳までを労働能力喪失期間として算定した事案
交通事故被害者の死亡逸失利益の算定について、希望する職業に就くため新卒での就職を断念し、大学卒業後アルバイトに従事し、近い将来、正社員として就労することを視野にいれて進路を考えていたこと等の事情を考慮し、大学卒業後3年程度経過した25歳から67歳までを労働能力喪失期間として算定した事案
事案の概要
見通しが悪い十字路交差点において、被告運転の普通乗用自動車と、原告運転に原動機付自転車とが出会い頭に衝突した交通事故の事案において、争点のうち、表題の点について、裁判所は、次のとおり判断しました。すなわち、被害者が当時23歳であり、大学卒業後、希望する職業に就くため新卒での就職を断念し、アルバイトに従事しながら独学で専門知識を学んでいたこと、大学卒業後本件事故日までアルバイトで得た収入が合計約23万円であったが、他方で、奨学金の返済期限猶予手続を自分で行い、新たな資格取得の勉強を始めるなど、近い将来正社員として就労することを視野にいれて進路を考えていたことが伺われ、その他事情を総合考慮すると、本件事故に遭わなければ遅くとも一般に新卒扱いとして採用可能性のある大学卒業後3年程度を経るまでには就職しその後は大学卒男子全年齢平均程度の収入を得る蓋然性があったとみるのが相当であるとして、25歳から67歳に達するまでの42年間稼働して収入を得ることができたとし、生活費控除率を50%としてライプニッツ方式により、死亡逸失利益を算定した(山口地裁平成30年2月28日判決)。
交通事故(死亡事故)において、逸失利益は争点になることが多い論点の一つです。事故当時、まだ学生であった、将来の目標に向かってアルバイト生活をしていた、無職であったが資格の勉強をしていたなど、当該事故時点においては、まだ具体的収入は得られていないが、上記生活を継続していれば、近い将来新たな仕事に就くことができ、相当程度の収入を得ることができたといえるような場合があります。
今回ご紹介した上記裁判例は、まさに上記の点について、被害者側の主張がある程度認められた事例であり、大変参考になります。
このような場合、裁判では、逸失利益算定のための基礎収入を、必ずしも被害者の当時の収入とはせず、今回ご紹介した例のように将来得られたであろう金額を基礎として算定することもあります。被害者側としては、このような判断をしてもらうか否かで、損害賠償額が大きく変わってきます。不幸にして亡くなられてしまった皆様の事故当時のがんばりや努力を認定させ、逸失利益につき有利な判断を獲得するためには、関連する証拠を収集し、それらを戦略的かつ有効に提出できるかが重要になってきます。交通事故(死亡事故)事案においては、上記逸失利益の他、死亡慰謝料、さらには親族固有の慰謝料などが争点になることが多く、訴訟において、主張・立証していく上で専門的知識及び経験が必要になりますので、交通事故(死亡事故)でお困りの場合、まずは、弁護士にご相談することをお勧めします。
当事務所は、死亡事故事案において多数の解決実績、裁判実績を有しておりますので、お困りのことやご不安なことがありましたら、まずはお気軽にご相談ください。
- 逸失利益の定期金賠償を認めた事例(最高裁判所令和2年7月9日第一小法廷判決)
- 被害者(女性・80歳・主婦)の逸失利益について、夫と二人暮らし、夫の身の回りの世話をしていたとして家事従事者と認めた裁判例(大阪地裁平成30年7月5日)
- 左目の失明により運動能力が低下し、もとの持病が悪化した結果、右足膝下切断となった事案で、失明だけでなく切断との因果関係を肯定した裁判例(東京高裁平成30年7月17日)
- 評価損として、損傷の部位・程度を考慮し修理費の30%相当額を認めた裁判例
- 被害者の主張する代車費用を認めた事案(大阪地裁平成30年7月26日判決)
- 信号機による交通整理の行われている交差点において,右折合図することなく右折しようとした加害者(タクシー)と,対面信号機の青色表示に従って対向直進した被害者(原動機付自転車)とが衝突した事故において,被害者にも低速で右折を開始している加害者の動静に注視し,その安全を確認して進行すべき義務を怠った過失がないとはいえないとして,過失割合を,被害者側5%,加害者側95%と認めた事案(東京地裁平成30年5月9日判決)
- 事故により右大腿近位外側に皮下組織の損傷による皮膚の陥凹と色素沈着の残存、組織隆起等を残して症状固定となったメディアで活躍できるモデル等の仕事を将来の希望としていた被害者(女性・17歳)の後遺障害慰謝料について、同症状は、後遺障害等級14級5号に該当しないと認定しつつ、その大きさはそれなりに大きいこと、隆起が第三者からも認識可能であること、被害者の年齢、性別、将来の希望等を含め心理的負担を与えるなど事情を総合考慮して20万円の慰謝料を認めた事案(大阪地裁平成30年2月27日判決)
- 追突事故の受傷(頚椎捻挫など)により交通事故直後に予定されていた2件の国際ピアノコンクールへの出場を断念せざるを得なかった被害者(26歳・女性・ピアニスト)の慰謝料について、被害者の経歴や各コンクールで入賞するために努力を継続した事情に鑑みると、被害者の慰謝料算定において十分考慮すべき事情であるした事案(東京地裁平成30年1月29日判決)
- 交通事故の被害に遭う前日に月給70万円とする雇用契約を締結した男性被害者が,交通事故により頚椎捻挫,腰椎捻挫などの傷害を負った場合に,事故前3年間の事業所得が約20万円、0円、105万だったことを考慮してもなお、雇用契約相当の収入を得られる蓋然性があったとして、症状固定日までの約300日間の合計額約792万円の概ね7割に相当する555万円の休業損害を認めた事案(さいたま地裁平成30年1月17日判決)
- 被害者が行使する自賠法16条1項に基づく請求権の額と、労災補償法12条の4第1項に基づき国に移転し行使される上記請求権の合計額が、自賠責保険の保険金額を超える場合、被害者は国に優先して損害賠償額の支払いを受けられると判断した事案(最判平成30年9月27日)