関節機能障害と交通事故の関係

1 関節機能障害と交通事故における後遺障害の評価

交通事故により、骨折や脱臼をしたり、筋肉の損傷が生じたりすると、いくら治療を行っても、手や足の関節が事故前のようには曲がらなくなってしまうことがあります。これを関節機能障害の中でも可動域の制限といいます。

一般に、関節機能障害における可動域の制限は、肩、肘、手首、手指、股、膝、足首、足指などの身体の部位で問題となります。
こうした可動域制限を損害賠償額の中で適切に評価してもらう上では、「後遺障害」として認定してもらえるかが重要なポイントとなります。一つの関節について、関節機能障害の可動域制限が後遺障害として認定された場合の等級は、主に、8級、10級、12級(器質的損傷の立証ができない場合には、14級か非該当)のいずれかになりますが、仮に12級として認定された場合、後遺症慰謝料だけでも200万円以上の金額が裁判実務での基準となってきますし、後遺障害として認定されることにより、逸失利益も損害として認められます。

なお、治療を続けても完治せずに残った身体的な症状を「後遺症」と言いますが、「後遺症」は、「後遺障害」とは異なるものであることに注意が必要です。「後遺障害」とは、交通事故の補償の基準となる法的な概念で、最終的には裁判所が判断するものであり、医師に後遺症が残ると言われても、直ちに後遺障害が認定されるわけではありません。
具体的に、可動域制限の関節機能障害が後遺障害として認定されるためには、可動域制限の原因である器質的損傷があることを前提として、一定の基準以上の可動域制限が生じていることが必要になってきます。器質的損傷の立証ができない場合には、14等級にとどまるか、非該当となるのが通常です。

例えば、上肢の三大関節(肩、肘、手)や、下肢の三大関節(股、膝、足)の場合、一つの関節が、(1)硬直又はこれに近い状態にある場合は8級、(2)可動域が2分の1に制限された場合は10級、(3)可動域が4分の3に制限された場合は12級、というのが基準になってきます。また、可動域の測定方法についても、原則として、健側(障害が残っていない方)の可動域と患側(障害が残っている方)の可動域を比較して、医師が手を添えて計測する他動値で判断するというように、一定の基準があります。
こうした可動域制限についての後遺障害の認定の基準については、医師が十分に理解していないケースも多く、法律の専門家である弁護士が関与することが不可欠と言えます。

 

2 関節機能障害が起こりやすい傷病について

関節機能障害(可動域の制限)が起こりやすい傷病としては、経験上、関節内での骨折や、脱臼、靭帯の断裂等があげられます。
もっとも、単純な骨折や、脱臼であれば、通常適切な治療を適切な時期に行えば、時間の経過と併せて、後遺障害が残存することは、それほど多くないと思います。

また、通常、後遺障害が残存しないであろう単純な脱臼や骨折、であれば、後遺障害が残っていると主張しても、それが例外的に他覚的に、つまりMRI等の医証によって証明できるような場合を除いて、後遺障害として賠償において考慮されることは基本的には無い、ということになるのが通常です。
また、他覚的な所見を伴わない腱板損傷や靭帯損傷との傷病診断では、通常は後遺障害を残さないことが多いですし、賠償上もそれを後遺障害として認定してもらうことは基本的に難しいと言えます。

これに対して、高原骨折や、脱臼骨折等の重篤な案件では、手術を経ても、完全な可動域まで回復できないケースが多いようです。
ただし、このような重篤な傷害であっても、主治医によっては、無理やり曲げた状態をもって症状固定時の可動域として関節機能障害の認定を意図的に妨げるような診断書を作成するようなケースがあり、後遺障害ではない、と判断するケースに遭遇しています。
後遺障害が起こりやすい傷病、高原骨折や脱臼骨折、靭帯の断裂等のケースでは、最終的にどのように症状固定をして関節機能障害を理由とする後遺障害を適切に認定してもらうのか、ある程度戦略的な判断が必要になると言えます。

 

3 関節機能障害の認定のポイント

1で述べた通り、関節機能障害によって認定される後遺障害は、可動域制限があることを前提に、その程度によって等級が設定されています。
それでは、後遺障害の認定において、可動域の制限はどのようにして計測されるのでしょうか。

これは、後遺障害診断書を作成する医師が、基本的に、患者の体に手を添えて動かした値(これを「他動値」といいます)によって計測し、後遺障害診断書に記載します。具体的な計測方法は、日本整形学科学会および日本リハビリテーション医学会が策定した「関節可動域表示並びに測定法」に準拠した「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」により、詳細に定められています。
認定基準に数度足りないだけでも、原則として、後遺障害の認定は認められませんので、この計測が正しく行われるかは、認定を目指す被害者の方にとって、非常に重要となります。
ところが、これらを理解していない医者が多いのが実情です。ひどいケースですと、計測器(角度計)すら使用せず、目分量で記載したり、右側と左側を誤って計測する医師もいるほどです。

そこで、計測方法について把握している弁護士が同席するなどして、正しい計測がなされているかをチェックすることが必要です。
もっとも、たとえ認定基準を満たす可動域制限があったとしても、それだけでは後遺障害の認定を受けるには充分ではありません。後遺障害の認定を受けるためには、関節部分の骨折後の癒合不良、関節周辺組織の変性による関節拘縮や神経の損傷といった、器質的損傷があること、つまり、「その可動域制限を発生せしめるような物理的・物質的な損傷が体にあること」が、原則として必要となります。

こういった器質的損傷は、レントゲンやMRIといった画像等で立証することとなります。可動域制限が存在しても、器質的損傷が認定されない場合は、神経症状として、多くは14級9号の認定(場合によっては、非該当)に留まるものと考えられます。

 

4 関節機能障害が認定された場合の賠償額

関節機能障害が後遺障害として認定された場合、被害者が支払いを受けることができる主要な損害費目として、①治療費等、②休業損害、③逸失利益、④入通院慰謝料、⑤後遺症慰謝料が挙げられます。なお、以下では、交通事故に関し被害者に過失がないことを前提に、各損害費目について説明します。

 

① 治療費等

治療費は、診療行為の医学的必要性・相当性が認められる限り、実費全額が損害として認められます。
そのほかに代表的なものを挙げますと、関節機能障害により装具の着用が必要となった場合に、将来の装具費用も含めて損害として請求できます。

 

② 休業損害

休業損害とは、交通事故での怪我の治療のために休業した際の減収を賠償するものです(ただし、症状固定までの休業に限られます。)。休業損害の金額は、被害者の事故前の年収により様々ですが、例えば給与所得者の場合、事故前3ヶ月分の収入を平均して1日あたりの収入を算出し、それに休業日数を乗じて算出することが多いです。

 

③ 逸失利益

逸失利益とは、被害者が、将来得られるはずであったにもかかわらず、交通事故の後遺障害により得ることができなかった収入をいいます。

逸失利益の金額は、被害者の年齢(今後の就労可能年数)や被害者の収入により様々です。

具体的には、「交通事故前の基礎年収」×「労働能力喪失割合(原則として就労可能年数)」×「労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数(将来受け取るはずの金銭を損害賠償の段階で前倒しで受けとるため,得られた利益を控除するために使う指数)」という計算式により算定されます。また、「ライプニッツ係数」は、改正民法の施行により法定利率が変更されたことから(5%→当面の間3%)、事故が2020年3月31日以前か4月1日以降かによって変わってきます。
例えば、2020年5月1日の事故で、被害者が事故時に40歳(今後の就労可能年数27年)、事故前の年収が500万円であるケースを想定してみましょう。被害者の可動域制限の程度(後遺障害等級)に応じた逸失利益の金額は、一般的な裁判実務の相場からすると、以下の通りとなります。

・8級6号・7号に該当すると評価された場合 約4100万円

・10級10号・11号に該当すると評価された場合 約2500万円

・12級6号・7号に該当すると評価された場合 約1300万円

 

④ 入通院慰謝料

入通院慰謝料とは、交通事故での怪我を治療するために入院や通院を余儀なくされた被害者の精神的苦痛を賠償するものです。
一般的には、入院・通院期間に応じて賠償額が定まるとされています。例えば、症状固定までに6ヶ月間の通院を要した場合には、116万円が相場とされています。

 

⑤ 後遺症慰謝料

後遺症慰謝料とは、交通事故による後遺障害が残存してしまったことにより、被害者が被った精神的苦痛を賠償するものです。もっとも、被害者の精神的苦痛を客観的に数値化することは困難であることから、裁判実務においては、賠償額の相場が決まっています。
例えば、被害者の可動域制限が8級6号・7号の後遺障害に該当すると評価された場合には830万円、10級10号・11号の後遺障害に該当すると評価された場合には550万円、12級6号・7号の後遺障害に該当すると評価された場合には290万円が後遺症慰謝料の裁判における相場とされています。

 

5 関節機能障害と症状固定までのポイント

関節機能障害の後遺障害等級は、症状固定時、すなわちそれ以上の治療の効果が期待できないと判断されて、残存する関節の制限が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したと判断されたことにより、後遺障害診断を受けた段階における可動域制限の測定角度が基準となります。

もっとも、症状固定の時期については、経験上、実際には、主治医との協議によって前後することがあります。
そして、測定角度が等級認定の基準(2分の1以下、あるいは4分の3以下)に数度足りないだけでも、原則として、その基準に対応した等級は認められません。
そうすると、症状固定の時期をどの時点と主治医が判断したのかによって、関節機能障害が認定されるのか、されないのか、判断が分かれるケースも想定されます。

例えば、関節の可動域制限を理由として、後遺障害等級12級7号が認定された場合、後遺障害に関する損害だけ取り出しても、40歳、年収500万円の方で被害者側に過失がなければ、後遺傷害慰謝料として290万円(裁判基準)、後遺障害逸失利益として500万円×14.643(67歳までの労働能力喪失期間27年間に対応するライプニッツ係数)×14%(労働能力喪失率)=約1000万円(裁判基準)の支払いを受けることができる可能性があります。ところが、可動域制限が数度足りずに後遺障害等級が非該当となった場合、症状としてはほとんど変わらないにもかかわらず、後遺障害に関する賠償を勝ち取るには、原則として裁判手続による他なく、交渉で妥当な賠償金額を得ることは困難になります。

したがって、関節機能障害の程度が、後遺障害等級認定基準の限界ラインにあるようなケースでは、主治医と、症状固定の解釈(時期)について、よく協議する必要があると考えています。
なお、症状固定との診断を受けた後は、その日以降の治療費や休業損害は原則として請求できませんので、この点も考慮する必要があります。
このように、症状固定時期は、交通事故の賠償を考えるに当たっては非常に重要です。
ただし、症状固定とは、冒頭に記述したとおり、一般的な治療によっても症状の改善が見込まれない状態を指しますので、本来は客観的に認定されるべきですし、症状固定時期が早すぎる、例えば、骨折部位の骨癒合がまだ不十分であると診断されているケース、プレート除去手術が今後行われる予定があるケースでは、「まだ症状固定には至っていない」と判断され、関節機能障害が認定されない可能性があります。

したがって、症状固定前に、交通事故に精通した弁護士に相談し、事案に応じて、適切な症状固定時期を検討する必要があるでしょう。

 

 

この記事を書いた人

弁護士法人江原総合法律事務所

埼玉・越谷地域に根差し、交通事故に豊富なノウハウを持つ江原総合法律事務所の弁護士までご相談下さい。交通事故分野における当事務所の対応の特徴は、「事故直後」「後遺症(後遺障害)の事前認定前」からの被害者サポートです。適切なタイミングから最適なサポートをいたします。

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