277 外傷性鼓膜穿孔 (こまくせんこう)

 

外耳道の外傷には、耳かきなどで外耳道を傷つける、虫や小石などの異物が外耳道に入ることで発症しています。

中耳の外傷は、

①鼓膜穿孔のみのもの、

②耳小骨の損傷を伴うもの、

③アブミ骨の脱臼による外リンパ瘻を伴うもの

以上の3つに大別することができます。

 

①鼓膜穿孔のみのもの、

交通事故では、側面の出合い頭衝突による衝撃により、鼓膜穿孔を発症する可能性があります。

鼓膜が破れた瞬間は、騒音と疼痛、外耳出血があり、難聴、耳閉感、耳鳴りなどの症状が出現します。

 

②耳小骨の損傷を伴うもの、

耳小骨とは、鐙骨(あぶみこつ)、砧骨(きぬたこつ)、槌骨(つちこつ)の3つの微少な骨の総称であり、外部から音として鼓膜に伝わった振動を内耳に伝える働きをしています。

 

衝撃波により、鼓膜だけでなく耳小骨まで損傷することがあります。

耳小骨連鎖が断裂すると、難聴を発症します。

 

③鐙骨(あぶみこつ)の脱臼による外リンパ瘻を伴うもの

鐙骨(あぶみこつ)の底部が破損、蝸牛窓膜が傷つくと、内耳の中の液が外に漏出する、外リンパ瘻を発症することがあります。

症状としては、強いめまいや高度な難聴、伝音難聴+感音難聴があります。

 

外傷性鼓膜穿孔における後遺障害のポイント

 

1)鼓膜の穿孔にとどまるものは、後遺症を残すことは、ほとんどありません。

鼓膜穿孔に伴い、中耳炎=急性化膿性中耳炎を発症すると、難聴、耳鳴り、耳漏などの症状により、いつまで経っても、鼓膜の穿孔が塞がらない状況になります。

鼓室形成術で対応されますが、軽度な難聴、耳鳴りの後遺障害を残すことがあります

 

2)耳小骨離断、ずれなどにより、つち骨、きぬた骨、あぶみ骨の耳小骨連鎖が切断されると、高度な伝音性難聴が出現、また、耳小骨への衝撃が強いときは、内耳の損傷や三半規管の震盪などにより、めまいを伴うこともあります。

 

※難聴の後遺障害等級について

 

 

 

視力では、メガネやコンタクトレンズで矯正された視力で後遺障害等級を認定していますが、難聴では、裸の聴力で等級が認定されています。

本件の伝音性難聴は、補聴器で矯正することができます。

 

※難聴を立証する他覚的検査

 

 

①純音聴力検査

オージオメーターを使用し、気導聴力検査と骨導聴力検査の2つが実施されます。

気導とは空気中を伝わってきた音、骨導とは頭蓋骨を伝わってきた音のことです。

 

 

額と耳たぶに電極シールをつけ、ヘッドホンからの音を聞いて検査します。 

検査時間は、30~40分、検査費用は3割負担で2010円となります。

難聴には伝音性、感音性、これらの2つが重なり合った混合性がありますが、伝音性は気導聴力検査で、感音性は骨導聴力検査で判定するのです。

 

聴力はデシベル(dB)で表示します。

500、1000、2000、4000ヘルツ(Hz)のレベルで3回の検査を実施し、2回目、3回目の測定値の平均値を取り、6分法の計算式で平均純音聴力レベルを求め、認定します。

 

6分法の計算式とは、

500Hzの音に対する純音聴力レベル⇒A

1000Hz⇒B

2000Hz⇒C

4000Hz⇒D

(A+2B+2C+D)÷6=平均純音聴力レベル

 

検査を3回行うこと、

検査と検査の間隔は7日程度開けること、

後遺障害等級は、2回目と3回目の平均純音聴力レベルの平均で認定がなされること、

同一ヘルツの検査値に10dB以上の差が認められると、測定値としては不正確と判断されること、

両耳の聴力障害は、1耳ごとに等級を定めて併合しないこと、

 

②語音聴力検査

言葉の聞こえ方と聞き分ける能力を検査します。

 

 

スピーチオージオメーター

スピーチオージオメーターを使用し、語音聴取域値検査と語音弁別検査が実施されます。

 

検査値はヘルツごとに明瞭度で表示され、その最高値を最高明瞭度として採用します。

これらの2つの検査、事実上は4つの検査から求められた数値で、聴力を判断するのです。

 

③注意点

聴力障害の等級は、純音聴力と語音聴力検査の測定結果を基礎に、両耳では6段階、片耳では4段階の等級が設定されています。

両耳の聴力障害については、障害等級表の両耳の聴力障害で認定、片耳ごとの等級による併合の扱いは行いません。

 

④後遺障害診断における聴力障害立証のチェックポイント

 

 

 

眼科と同じく耳鼻科の日常の診療は、外耳・中耳・内耳炎の治療等が中心です。

 

頭部外傷を原因とする聴覚神経の損傷は本来、脳神経外科や神経耳鼻科領域で、普通の耳鼻科が得意とするところではありません。

したがって、頭部外傷を原因とする聴覚障害は、担当科の紹介で、検査のみの受診です。

検査結果を脳神経外科に持ち帰り、後遺障害診断書の記載は、そちらでお願いすることになります。

 

難聴を治療する上で、の検査ではなく、後遺障害等級を確定させる目的の検査ですから、脳神経外科の医師にそれを伝え、1週間ごとに3回の検査を行うよう指示をお願いすることになります。検査表のすべてをコピーで回収して添付します。

 

⑤ABR=聴性脳幹反応、SR=あぶみ骨筋反射

従来は、先の純音聴力検査と語音聴力検査で聴力の確認は可能です。

しかし、これらの検査は被害者の自覚的な応答で判定がなされています。

ABR・聴性脳幹反応とSR・あぶみ骨筋反射が、誤魔化しようのない検査となります。

ABRは音の刺激で脳が示す電気生理学的な反応を読み取って、波形を記録するシステムです。

 

中耳のあぶみ骨には耳小骨筋が付いています。

大音響が襲ってきたとき、この小骨筋は咄嗟に収縮して内耳を保護します。

この収縮作用を利用して聴力を検査するのがSRです。

 

 

インピーダンスオージオメトリー

インピーダンスオージオメトリーで検出します。

ABRに同じく、被害者の意思でコントロールはできません。

 

3)鐙骨(あぶみこつ)の脱臼による外リンパ瘻を伴うもの

外リンパ瘻とは、中耳と内耳の境界の膜が破れ、内耳内のリンパ液が漏れる状態です。

症状としては、強いめまいや高度な難聴、伝音難聴+感音難聴があります。

 

内耳の入り口に強烈な振動が伝わると、高音障害型の神経性難聴やめまいを生じることがあります。ほとんどは、一過性神経障害ですが、聴神経の回復が悪いときは、約2週間で、症状は固定傾向となり、1カ月もすれば、神経性難聴、めまいなどが後遺障害として残ります。

 

※めまい・失調および平衡機能障害の後遺障害等級

 

 

※平衡機能障害

 

 

 

人間の身体の平衡機能は、

①三半規管や耳石の前庭系、

②視覚系、

③表在・深部知覚系、

 

以上の3系統から発信された情報を小脳及び中枢神経系が統合して左右のバランスを取り、維持されています。 平衡機能障害を来す部位は上記の3つの規管以外にも脳幹・脊髄・小脳の中枢神経系が考えられるのです。

 

教科書によるめまいの分類

 

①定型性めまい=末梢性障害・内耳性めまい

周囲がぐるぐる回る、床が傾く、壁が倒れるなど、回転性のめまいが中心的な症状で、内耳、前庭神経、脳幹の前庭核、これらと密接な関係にある小脳の障害によるものです。

症状の程度が強く、頭位や体位を変えることによって、症状が増悪し、多くは、耳鳴や難聴などの症状を伴います。

 

②非定型性めまい=中枢性障害

末梢性よりも高位の中枢神経系の障害によるもので、ふらつく、宙に浮いた感じ、目の前が暗くなるなど、身体の不安定感を訴えます。

 

※他覚的検査による立証

 

 

 

めまいの検査

立証のための検査は、5項目、19種類がありますが、全ての検査を受ける必要はありません。

まず、医師には、めまいの症状を具体的に、正確に伝えることです。

 

①難聴、耳鳴り、悪心・嘔吐などの随伴症状が、あるか、ないか

②めまいなどの時間的経過や持続時間、

③めまいが、反復するか、しないか

④起立したときに、頭頚部の位置を変えるとめまいが生じるか、どうか、その位置

これらの自覚症状から、医師が上記の検査を選択します。

 

1)眼振検査

眼球の不随意、異常な動きをフレンツェル眼鏡、赤外線CCDカメラ、暗所ENG記録で観察します。

 

①注視眼振検査

モノを注視した状態で眼振の有無を調べる検査で、頭を動かさずに、視線を上下左右に移して、その際に眼振が現れるかどうかを観察します。

 

②非注視眼振検査

モノを注視しない状態で、眼振が起こるかどうかを調べる検査で、目の焦点が合わないようにするためにフレンツェル眼鏡という検査用の特殊なメガネを装着して検査が行われます。

フレンツェル眼鏡は、厚い凸レンズにより、目の焦点が合わず、モノが見えにくくなります。

眼科医からは患者の目が拡大されて見え、眼球の動きがよく観察できるようになっています。

最近では、赤外線CCDカメラを用いて、眼球の動きを録画する眼振検査が行われています。

 

内耳に障害があるときは、非注視眼振検査で眼振が現れやすく、注視眼振検査では眼振が現れ難いのですが、小脳や脳幹に障害のある人は、双方の検査で眼振が起こります。

 

小脳や脳幹には内耳の働きを補う機能があり、内耳の障害によって眼振が起こりそうになると、モノを注視することで眼振を抑えようとします。

小脳や脳幹の機能が正常でないと、モノを注視する注視眼振検査でも眼振が現れることになります。

障害が内耳にあるときは、小脳や脳幹の機能は正常に働き、注視眼振検査では眼振が起こりません。

 

③頭位眼振検査

赤外線CCDカメラを装着、座位・仰臥位・懸垂頭位にて、静的な頭位変換による検査が行われます。

耳石器刺激による末梢および中枢前庭系の不均衡に基づく眼振を検出します。

明らかな眼振は、病的と判断されます。

 

 

イラストは、フレンツェル眼鏡ですが、最近では赤外線CCDカメラにより検査が行われています。

 

④頭位変換眼振検査

急激な頭位変換により、動的な前庭刺激を与えて生ずる眼振を観察するもので、眼振は耳石器と半規管の刺激で誘発されます。

 

2)カロリック検査=迷路刺激検査

温度、電気あるいは回転刺激を末梢前庭や前庭神経に与えたときに生じる眼振や前庭脊髄反射の異常を調べる検査です。

 

①温度刺激検査

外側半規管は3半規管の1つですが、内耳の外側にあって、外耳道に近く、外耳道からの温度の影響を受けやすい部位です。

外耳道に44℃の温水、30℃の冷水を注入すると、温水や冷水と体温との差により外側半規管内の内リンパ液に対流が生じます。

対流が外側半規管のクプラを偏椅させ、温水注入時は外側半規管が興奮し、冷水注入時は抑制され、眼振を誘発する検査です。

半規管機能低下が20%以上あるいは最大緩徐相速度が10°/秒未満のときは、水平半規管の反応低下とし、同側の末梢前庭、前庭神経障害が示唆しています。

 

 

 

②Visual suppression検査

温度眼振反応が最大になったときに、眼前50cmの指標を固視させると眼振解発が抑制されます。

抑制の低下や消失を示すと小脳障害が疑われます。

 

③回転刺激検査

水平回転を行うと、頭部に加わった加速度により、水平半規管が刺激を受け、回転中と回転後に眼振が生じるのですが、前庭機能の左右差が有意なときは、末梢性前庭障害が疑われます。

 

 

④直流電気刺激検査

耳後部に直流通電することによって得られる眼振や身体動揺を観察します。

反応の減弱や消失があるときは、迷路よりも前庭神経の障害が疑われます。

 

⑤前庭誘発筋電位検査、VEMP

大きな音響刺激によって誘発される胸鎖乳突筋の反応を計測するものです。

球形嚢、下前庭神経系の異常を検出するのに有用な検査として、近年、普及しています。

 

3)視刺激検査

 

①視運動性眼振検査

走行中の車の窓から景色を眺めるときは、1つの物体を注視してある程度視点を動かしていき、どこかで視点を外して、次の物体に焦点を移すという作業を繰り返しています。

目の動きは、物体を追っているときの動きと、視点を戻すときの急激な動きに分かれますが、戻りの眼振が起きない、タイミングの悪い動き、動きを追わずに反対方向へ視点が振れるときは、中枢性のめまいが示唆されます。

 

②追跡眼球運動検査

滑らかなパターンで目がモノを追跡するかをチェック、正常であれば、滑らかなサイン曲線の波が出ますが、小脳や脳幹障害では、曲線にはならず、ギザギザや遅れて途切れる波が出現します。

 

4体平衡検査

静的平衡検査では、

①両脚直立検査

 

両足を揃えて直立し、開眼と閉眼でそれぞれ60秒間観察します。

内耳、前庭神経障害、下肢深部知覚障害では、明るい所では、平衡は保たれるが、暗い所でふらつきが著しいことが知られています。

小脳障害では、明所、暗所ともにふらつきが著しく、両者の差が少ないことが特徴です。

 

②Mann検査

両足を一直線上に前後で揃え、開眼と閉眼でそれぞれ30秒間観察します。

 

③単脚直立検査

挙上足の大腿が水平になるように片足で直立し、開眼で30秒間、閉眼で15秒間観察します。

 

④重心動揺検査

重心動揺計を用いて、30~60秒間に両脚直立したときの重心の移動を分析します。

 

動的体平衡検査では、

①指示検査

座位の状態で示指を伸ばし、上肢を上方に垂直に挙げた位置から水平の高さに下して、前方に示した目標を指示させます。

開眼で10回、同じ動作を反復させて、指示点より10cm以上の偏示を異常とします。

 

②書字検査

遮眼で4~5文字の縦書きをさせて偏倚角度を測定し、10°以上の偏倚を異常とします。

 

 

 

③足踏検査

両側上肢を水平に挙上して、遮眼で100歩足踏みをさせ、回転角や移行距離を測定します。

回転角91°以上、移行距離1m以上を異常と判断します。

 

④歩行検査

遮眼で6mの直線上を前進および後退させ、直線上からの偏倚距離を測定します。

前進で1m、後退で1.4m以上の左右の偏倚を異常と判断します。

 

最新の検査機器

 

1)ビデオ式眼振計測装置、VOG

 

 

 

 

ビデオ式眼振計測装置、VOG

自発眼振検査、頭位眼振検査、頭位変換眼振検査、カロリック検査などに対応しており、前庭検査をPCにカメラを接続し起動するだけで、簡単に計測、解析ができて、精度も高いのです。

ENGのように電極を貼り付けることや、校正を行う必要がなく、被験者の負担が少なく、簡易に検査を行うことができます。

 

 

 

エアーカロリック装置

2)エアーカロリック装置は患者と検査員両方の負担を減らす新しいカロリックの検査方法です。

30度の冷水、44度の温水を用意することなく、温風、冷風を注入して、温度眼振刺激を与えます。

注水式に比べ被験者に対して負担が少ないカロリック検査を実施することができます。

 

3)Titan聴覚検査機器

Titanは、インピーダンス(オージオメーター)、聴性脳幹反応=ABR、耳音響放射=OAE、新生児スクリーニング検査=ABRISに対応できる検査機器です。

 

 

この記事を書いた人

弁護士法人江原総合法律事務所

埼玉・越谷地域に根差し、交通事故に豊富なノウハウを持つ江原総合法律事務所の弁護士までご相談下さい。交通事故分野における当事務所の対応の特徴は、「事故直後」「後遺症(後遺障害)の事前認定前」からの被害者サポートです。適切なタイミングから最適なサポートをいたします。

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